良い金型とは

金型は製造業の中心的な要素であり、製品の品質と生産効率(製品コスト)に大きな影響を与えます。したがって、良質な金型を選択することは、生産プロセス全体の成功にとって非常に重要です。良い金型。 ひとことでいえば非常に簡単なワードですが、結局のところ良い金型の定義とは何でしょうか。とにかく価格の安い金型?とにかく高精度な金型?高コストな材料を用いて製作した高耐久な金型? 答えは一概に定めれるものではなく、各社により考え方も様々です。弊社では良い金型とは、生産する部品に求められる品質要求を満たした上で品質安定性が高く、コストパフォーマンスの高い金型、多少抽象的ではありますがひとことでいえば「成形品仕様に対してバランスの取れた金型」 であるかということに尽きると考えます。

ここで金型のパフォーマンスについて考えてみます。金型の各仕様や要素が製品の量産コストや品質にどのような影響を与えるでしょうか。代表的なものを挙げてみたいと思います。

金型の価格

金型の初期コストは製品の単価に直接反映されます。これは、製品の必要生産量が増えるにつれて、一つ一つの製品に対する金型のコストが分散され、単価が下がるという原理です。したがって、一つの金型で生涯生産される製品の数量が多ければ多いほど、製品1ヶ当たりの金型単価を安くすることができます。しかし、必要生産量が少ない場合、金型のコストは製品の単価を大幅に上昇させる可能性があります。

取数

取数が多いほど金型の価格は高くなりますが、1日で生産できる数量が多くなる為、成形品の加工単価は安価となります。この為製品の月間~もしくは年間での所要量計画や、生涯数量予測等など定めた償却数よりベストな取数が決まります。メーカーごとで製造できる金型サイズや、技術的要素により対応できる最大の取数が異なります。非常に多くの生産数を必要とするケースで取数が不足する場合複数面の製作が必要(1面では生産能力が足りない)となる場合もあります。

取数を多くすることのメリット

  • 成形加工費が安くなる(ただし、1LOTの生産数による)
  • 1日当たりに生産することのできる最大生産数が増える(=量産リードタイムを短縮する)

取数を多くすることのデメリット

  • 金型費が高くなる
  • 金型サイズが大きくなる(保管スペースや、成形機チャージの上昇に影響)
  • 立上・修正改造等 工期が長くなる
  • 設計変更~改造等の際、改造費が高くなる
  • 金型が複雑となり、合わせの精度、キャビごとの加工精度等、製作精度が要求される
  • 要求品質により充填バランスに差が出ないような工夫、設計が求められる
  • 金型保全管理の負荷、難度が高くなる
  • 品質管理の負荷、難度が高くなる
取数を増やすことは単純に成形単価を下げますが、製造部門への負荷や求められる技術力・管理能力は上がります。

成形サイクル

成形サイクルが速いほど一定時間内に製造できる製品数が増える為、製品の加工原価が下がりますが、短く設定しすぎた場合製品品質や金型耐久に問題を及ぼす可能性があります。主に金型の鋼材選定や後処理、鋼材の熱伝導性や水管等の冷却設計、初期製作段階で求めるサイクルの樹脂収縮を緻密に計算された金型寸法で仕上げられているか等、金型の仕様、作り込みが成形品の最終的なサイクルを左右します。
一般的にはハイサイクルを狙った金型は通常よりも高コストな材料が使用されたり、設計・製作工程を複雑にすることにより金型費が高くなる傾向にあります。

耐久性(機構設計・鋼材・表面処理等)

高耐久金型の製造には主に強度と耐磨耗性が高い難削材が使用されることが多く、特殊な工具や技術、加工工数が必要となる為金型費が高価になります。が、最終的な償却数が増える為、成形品の生涯必要数が金型耐久に見合っている場合個当たりに織り込まれる最終的な金型費が安価となります。
鋼材だけではなく、成形品の形状設計(エッジの回避や合わせ勾配、面の確保など)、機構設計、表面処理等、ガスベント設計等によっても耐久性は大きく左右されます。また金型の耐久性は成形条件や、金型の適切なメンテナンスなどにも大きく影響を受けます。

ガスベント性能

ガスベントは非常に重要な要素のひとつです。ガスベントは金型内部の樹脂が流し込まれる空間に存在している空気や溶融した材料から発生するガスを適切に排出するための機構であり、これにより成形品の品質が大きく左右されます。ガスベントの設置は金型原価を増加させますが、成形品質に非常に優位に働きます。ガスベントがうまく適切に設計設置されていない金型は下記のような事象を引き起こします。

ガスベント設計が適切でない場合

良品の成形条件範囲が狭くなる

成形条件巾が狭い場合、最適な量産条件を見つけることが難しくなります。また非常にシビアな設定条件となった場合、生産LOTごとの様々なばらつき要素による影響を吸収できずに、同LOT内において自動量産で量産を生産し続けることが難しくなり不良品の発生に繋がります。

成形不良

ガスベントが不十分な場合、射出される樹脂が金型のキャビティに閉じ込められたガスを排出しきれず、ガス焼け、シルバー、エアボイドなどの不良や、またキャビティ内圧の上昇によりショートやヒケを引き起こすことがあります。このような不良品により再検査や再生産、また金型の修正が必要となり、製造コストが増大します。

金型の耐久性の低下

ガスが適切に排出されない場合、過度な圧力により高圧縮されたガスが高温となり樹脂より分解ガスが発生し、金型鋼材が腐食性ガスや高温により化学的劣化や熱的劣化を引き起こします。その結果浅いショット数にも関わらず金型が異常な磨耗を引き起こし、成形品の不良や、金型の修正に繋がります。金型寿命の低下は結果として長期的なコストの増大を招きます。

メンテナンスコストの増大

ガスベントが適切に設置されていない場合、長く連続で良品を成形し続けることが困難になります。ガスベントやその周辺部の清掃、修理、交換が頻繁に必要となると、これに伴う人件費や成形コストも増大します。金型のオーバーホールメンテナンスが頻繁に必要となると、組みばらし時のミスや事故等で金型の破損や労災に繋がることも考えられます。

入子割構想

初期設計段階で基準パート面であるPLをどこに設定するかということも重要ですが、それ以外にもどこをどれだけ分割して入子配置するのかということも非常に重要な型構想の要素です。一例として以下のような要素を鑑みながら入子割を検討する必要があります。

エアトラップの回避

エアトラップは樹脂の充填プロセスにおいて、空気やガスがキャビティ内で袋小路となり閉じ込められる現象を差しますが、大きくトラップが発生した場合上記しているようなガス抜け不足による不具合発生を引き起こします。よってガス抜きを目的として入子割を行うことも重要です。

製品の形状と機能

製品によっては、外観であったり、シール性能等であったり、出来る限り割ラインを発生させたくない箇所が存在します。製品形状に求められている仕様をしっかりと理解した上で割ラインを設置する必要があります。

加工難易性

入子割の有無で金型の加工方法や加工性、加工精度などが変化します。これらは金型製造コストや品質に影響を及ぼす為、金型製造時の加工のことも考慮した上で最適な割ラインを検討する必要があります。

メンテナンス性能

射出成形における金型のメンテナンスは、製品の品質、生産効率、金型の寿命、および総生産コストに深い影響を与えるため、非常に重要です。オーバーホール時の事を考慮されていない金型は時にメンテナンスにより問題を引き起こしてしまう事さえあります。一例として下記のような点に注意する必要があります。

組みばらしの容易性

組みばらしのし易い設計はオーバーホールに必要な時間を短縮させ、また組みばらし時の入子破損事故等を減少させます。また消耗部品なども交換しやすくすることでオーバーホールの実施をスムーズにします。

再組み時の再現性

組立を行う度に0.01でも位置寸法に再現性がない場合、直接製品に寸法に影響し、品質の低下や金型の寿命低下、最悪の場合破損を引き起こします。高精密な加工精度を必要とすることは当然ながら、位置決め機構を用いたり、型閉時の合わせ精度を担保する設計構想が必要となります。

誤組防止

組みばらし時に事例の多い事故が組み間違いです。誤組は金型の破損や、最悪そのまま生産することができてしまう場合不良品の発生に直結します。視認性が良く識別のしやすいマーキングや、物理的に誤組をできなくしてしまう誤組防止設計が重要となります。

成形不良率

金型の設計仕様や機構は、成形品質に大きな影響を与えます。不適切な設計や機構により、さまざまな成形不良が引き起こされることがあります。不良率の上昇は製造コストや生産能力の悪化に直結する為見逃すことのできない要素です。事前にシミュレーションや流動解析を行い、金型の設計を最適化することが重要です。また、試作段階での評価や検証を通じて、必要な調整や改善を行うことが求められます。これら最適な仕様に金型を作り上げる為には金型の知識だけでは足りず、成形技術知識も必要とされます。

上記は一例ですが、このように金型が持つ各要素というのは多くあり、 様々な面で成形品原価に大きな影響を及ぼします。基本的には成形品の製造原価を安くし高品質にする金型性能を持たせるには、金型費が高価となる傾向にあり、その逆も然りです。その為製品が求める機能や仕様、必要な生産数量、生涯数量などを理解した上で型仕様を定めることが重要と考えます。

取り数、鋼材仕様などは製作前段階でコスト計算しやすく非常にわかりやすい要素ですが、金型の設計構想や機構、耐久性、ガスベントなどの性能、最終的な量産成形サイクルは非常に重要で成形品コストに直結しているにも関わらず、結果を確認できるまでの時間軸が長くなる為もあり、見積時点ではあまり考慮されていない事もあります。

金型の見積を取る際に複数社相見積もりすることがあると思います。見積結果はどうでしょうか。各社見積価格が大きく異なることを感じたことがあると思います。一見不思議に思えるかもしれませんがなぜでしょうか。金型の製造コストは機械的に見積もることが困難なほど多くの要素によって決まり、また見積時点では詳細条件が不足していたり、非常にあいまいで不確定要素が多く、金型メーカーの思想の幅に委ねられている部分が大きいからではないかと思います。

取数、鋼材情報、金型費だけで選定をしてしまい、結果成形品にマッチしない金型性能であり結果的には成形コストが高くなってしまっていたというケースもありますし、逆に製品が必要としていない仕様を金型仕様に要求しすぎた為に無駄に金型費を上げてしまいコスト高を招いているケースもあります。

 

金型を見積~発注する際には金型の単価だけに目を向けず、成形品に対してベストでバランスのとれた仕様設計がされているか、金型が結果成形品原価に与える影響はどのようなものかに目を向けることが大切であると考えています。